京都地方裁判所 平成7年(ワ)1616号 判決 1997年10月31日
主文
一 被告らは、原告美山町に対し、自らまたは第三者をして別紙4記載の土地に別紙5記載の各物件を搬入するについて京都府北桑田郡美山町大字知見小字落窪谷の林道落窪谷線を使用してはならない。
二 原告落窪谷林道維持管理組合の各請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告美山町に生じた費用と被告らに生じた費用の二分の一を被告らの負担とし、原告落窪谷林道維持管理組合に生じた費用と被告らに生じた費用の二分の一を原告落窪谷林道維持管理組合の負担とする。
理由
【事実及び理由】
第一 請求
一 原告美山町
主文第一項と同じ。
二 原告落窪谷林道維持管理組合
被告らは、原告落窪谷林道維持管理組合に対し、自らまたは第三者をして別紙4記載の土地に別紙5記載の各物件を搬入するについて京都府北桑田郡美山町大字知見小字落窪谷の林道落窪谷線を使用してはならない。
第二 事案の概要
本件は、原告美山町(以下「原告町」という。)が地方自治法二条二項、三項二号及び「美山町林道管理条例」(平成七年三月二七日条例第九号、以下「本件条例」という。)に基づいて、原告落窪谷林道維持管理組合(以下「原告組合」という。)が原告町の委任あるいは組合員の総意及びその委任に基づいて、それぞれ被告らに対し被告らが別紙4記載の土地(以下「本件山林」という。)に別紙5記載の各物件(以下「産業廃棄物等」という。)を搬入するために林道を使用することの差止めを求めた事案である。
一 前提事実(かっこ内は確定した根拠を示す。<編注・証拠省略>)
1 当事者
原告町は普通地方公共団体である(争いがない。)
原告組合は「美山町林道管理規程」(その内容は別紙3のとおりである。)に基づいて京都府北桑田郡美山町大字知見小字落窪谷にある林道落窪谷線(以下「本件林道」という。)を維持管理するために平成四年九月一七日に総会を開き設立された法人格なき社団である。原告組合は本件林道の起点から奥地までの山林所有者で構成し、「林道維持管理組合規約」を定めている。
被告前長工業株式会社(以下「被告会社」という。)は昭和六〇年三月に設立された土木工事等の事業を目的とする株式会社である(争いがない。)。
被告前田こと朴長太郎(以下「被告前田」という。)は設立時には被告会社の代表取締役であったが、昭和六一年七月一四日に辞任して現在は取締役の地位にある。
2 本件林道の概要
本件林道は、原告町が京都府単費林道事業の補助金(これが開発事業費の五〇パーセントを占め、その余の三五パーセントを原告町が負担したほか、残りの一五パーセントを山林所有者らである受益者が負担したものである。)の交付を受けて「林業経営の合理化の促進及び農山村地域の振興を図るため」に(林道関係補助金交付要綱一条、甲五)、平成五年三月二〇日に概ね完成させた民有林林道である。本件林道は、京都府北桑田郡美山町大字知見字オドチ一九番地を起点とし、同町大字知見小字落窪谷六番地の二を終点とする総延長六六〇メートル、幅員四メートルの林道である。本件林道の利用区域内の状況は、森林資源の面積が針葉樹で六一・六九ヘクタール、広葉樹で二一・八七ヘクタールの合計八三・五六ヘクタールで、蓄積が針葉樹で一万〇六二九立方メートル、広葉樹で二四四五立方メートルの合計一万三〇七四立方メートルで、そのうち水源涵養保安林が四八・六七ヘクタールである。
3 本件林道の管理等
原告町は「森林の健全な育成を図るため、美山町が管理する林道及びこれに隣接する林地を保全するとともに、林道の機能が十分発揮できるように良好な状態で維持管理することにより、林業振興及び林道周辺の自然環境の保全に資することを目的と」して本件条例を定め、平成七年三月二七日から施行した(本件条例は同年一二月二〇日に改正され、改正後の内容は別紙1のとおりである。)。これを受けて町長は「美山町林道管理条例施行規則」(以下「本件規則」という。)を定め、同年三月二七日から施行した(その内容は別紙様式を除き別紙2のとおりである。)。原告町は、平成五年四月一日に本件林道を美山町民有林林道台帳に登載して管理しているほか、本件林道の維持管理及び補修整備並びに利用料の徴収等を原告組合に委任している。なお、原告町は本件条例を定めるまでは、昭和四八年九月一日に「美山町林道管理規程」を定めて町内の林道を管理してきた。
4 被告らによる本件林道の使用のおそれ
被告らは本件山林に産業廃棄物処理施設を設置し、産業廃棄物等を搬入するため本件林道を使用しようとしている(争いがない。)
二 主な争点
1 差止めの根拠
(原告町の主張)
(一) 本件林道は、原告町が林産物の搬出、造林、間伐、保育の施業の効率化、高度化を図るために開設したものである上、その始点は府道八原田上弓削線に接続するもののその終点は行き止まりで、隣接する集落もないから、本件林道は一般交通の用に供するものではなく、道路法上の道路ではない。また、京都府林道関係補助金交付要綱は、補助を受けて開設した林道の施設の全部または一部が林業以外の目的に転用されもしくは市町村道等へ用途変更される場合には、京都府知事の承認を得る必要があり、その場合、補助金交付の目的を達することが困難と認められるときは補助金の返還を要する旨定めているから、本件林道を林業以外の目的に利用することは制限されている。したがって、本件林道は一般公衆の用に供されるべきものとはいえない。
(二) 原告町は、林業基本法による森林資源に関する基本計画、森林法による全国森林計画、地域森林計画、美山町総合計画に基づいて、林産物の搬出、造林、間伐、保育の施業の効率化、高度化を図るため、京都府から補助金の交付を受け、山林所有者から用地の使用権の提供を受けた上、自らが事業主体となって路面、排水施設、橋、交通安全施設等を施工して本件林道を開設し、林道の管理に関する本件条例を定めているので、原告町は本来の目的を達成するために本件林道を管理する権限がある(地方自治法二条三項二号)。原告町は、本件条例が定める管理権に基づいて開設目的と異なる目的で使用する者やその目的を阻害する者に対し、本件林道の使用を禁止することができる。
(原告組合の主張)
(一) 本件林道は原告町に管理する権限があるが、本件条例及び本件規則は原告組合に日常的な維持管理を委ねている。そして、原告組合は「林道維持管理組合規約」を定めて、本件林道の維持管理や使用料の徴収等をしている。そこで、原告組合は、原告町の委任に基づいて、開設目的と異なる目的で使用する者やその目的を阻害する者に対し、本件林道の使用を禁止することができる。
(二) また、林道の組合員の使用権は、山林所有者が林業経営の効率化を図る目的で山林の一部を林道敷地として提供し、林道を開設することにより他人に自分の所有地を通行させるとともに、自分も他人の土地を通行する権利を取得する合意、すなわち通行地役権設定の合意に基づくものであるから、使用の目的等は山林所有者間の林道開設の際の合意内容によって制約されるところ、本件林道におけるその合意内容は、主として効率的な林業経営や森林の適正な維持管理のための使用あるいは山村生活者の生活道路としての使用を目的としている。そして、産業廃棄物等の投棄はその目的に反するばかりか、環境の破壊、水質の汚濁、災害の招来等を引き起こし他の原告組合員を害するものである。
そこで、前田卓也を除く原告組合員らは、被告らが産業廃棄物等の投棄のために本件林道を使用することに反対して被告らの使用を阻止するための一切の権限を原告組合に委任している。そして、原告組合は平成六年七月二三日に被告らが産業廃棄物を投棄するために本件林道を使用することを禁止する旨決定し、同月二五日にその旨を被告らに通告した。したがって、原告組合は、前田卓也を除く原告組合員らの総意とその委任に基づいて、被告らに対し、本件林道の使用を禁止することができる。
(被告らの主張)
(一) 林道の使用及び管理について定めた法律はなく、原告町の管理権の根拠は不明確である。本件林道は開発事業費の八五パーセントが公的助成によるものであって、公道として一般公衆の用に供されるべきものであるうえ、被告前田は受益者の一人として費用を負担しているのであるから、林産業以外の目的による使用を排除する根拠はない。
また、京都府林道関係補助金交付要綱においても、本件林道の開設目的を「林業経営の合理化の促進及び農山村地域の振興を図るため」とし、原告が定めていた「美山町林道管理規程」においても本件林道を「林産物、石材、鉱石等」を運搬する車両の通行を想定している。したがって、本件林道は、積極的に林業経営の合理化や農山村地域の振興を侵害しない限り、通行が自由な公道(公的費用で設置された道路)である。仮に、管理者が通行規制をすることができるとしても、禁止の対象とすることができるのは、林業経営の合理化や農山村地域の振興を積極的に侵害する行為など、一定の限定された違法不当な通行に限られるべきである。
(二) 被告らの産業廃棄物処理計画は、本件山林のうち一〇〇〇坪に安定型産業廃棄物(廃プラスチック類、ゴム屑、金属屑、ガラス屑等、建設廃材)を、二〇〇〇坪に土砂及び岩石をそれぞれ投棄するというもので、これを実行するには廃棄物の処理及び清掃に関する法律、京都府条例等の廃棄物の処分に関する関係法規による届出をすれば足りるものである。ところが、本件条例は、町長の許可を要するとして条件を過重するから条例制定権の範囲を逸脱したものであり、また上位の地方公共団体の許認可権を侵害するものとして違法である。
また、本件条例は本件山林を所有し、本件林道の開設費用を負担した被告らの財産権を侵害するものであるから、少なくとも被告らに適用することは違法である。
さらに、「美山町土砂等による土地の埋立て、盛土及びたい積行為の規制に関する条例」(平成六年七月一二日条例第一五号)はその制定の時期からしても、被告らによる残土等の投棄を禁止する目的で制定・施行されたものであり、少なくとも被告らには適用しうるものではない。
(三) 原告組合の設立に当たって本来その組合員であるべき被告前田に対し何の連絡や報告もなされておらず、その設立手続は違法である。また、原告町の管理権の根拠が不明確であるから、原告町から委任されたという原告組合の管理権の根拠も不明確である。
2 差止めの理由
(原告らの主張)
(一) 被告らは本件林道の隣接地に産業廃棄物処理施設を設置し、土地の形質を変更しようとしているが、本件条例一四条によるその設置等についての町長の同意も、また、本件条例七条による使用についての町長の許可も受けていないし、本件規則による林道使用許可申請もしていないから、被告らは本件林道を使用できないし、町長は本件条例一八条に基づいて本件林道の使用を禁止することができる。
(二) また、被告らは本件林道の中間地点から林道に接続して進入路を開設し、本件山林のうち九五三九・〇六平方メートルの森林を伐採し、谷に高さ約一〇メートルのコンクリート擁壁を設けて最終的には約一〇万立方メートル(ダンプカーで約一万台分)の産業廃棄物等を投棄しようと計画している。これは本件林道の開設目的に反するだけでなく、環境の破壊、水質の汚濁、災害の招来等により、本件林道の開設目的を阻害するものである。しかも、運搬される産業廃棄物等の量の膨大さを考えると、積載量や通行回数等が著しく多く、他の者の使用を妨げたり、使用上の危険を発生させたりして本件林道の維持に支障をきたすことも明らかである。
(被告らの主張)
(一) 原告らは、被告らが本件山林に産業廃棄物等を投棄することを阻止するために本件林道の使用を差し止めようとしているが、廃棄物の処理及び清掃に関する法律で許されている産業廃棄物等の投棄を全く目的の異なる林道の使用、管理のための本件条例に基づいてこれを禁止することは、同法の目的、範囲を逸脱するから違法である。
(二) 被告らが本件山林に産業廃棄物等を投棄しても、環境の破壊、水質の汚濁、災害の招来等のおそれはなく、また、被告らが産業廃棄物等を投棄するために本件林道を使用しても何ら本件林道に不都合は生じないから、原告らは被告らの使用を禁止することはできない。
(三) 本件林道は、被告前田が開発事業費の一五パーセントに当たる受益者負担金七五三万五〇〇〇円のうち五〇〇万円を支出した結果、設置の実現を見たものであり、被告前田としては、本件林道を使用できる旨の原告町の承諾を得て、右の五〇〇万円を平成五年三月三一日に支払ってこれを負担したのであるから、被告らは本件林道の使用権がある。
第三 争点に対する判断
一 認定した事実
《証拠略》によれば、次の事実が認められる。
1 原告町は、京都府の中央北北東に位置し、三四〇キロ平方メートルの面積(そのうちの約九五パーセントが山林)及び約五五〇〇人の人口を有する普通地方公共団体である。原告町は約八〇〇から約九〇〇メートルの重畳連山に囲まれ、福井県と滋賀県との県境を水源とする由良川が東西に貫流する豊かな緑と清流を持つ自然豊かな山村地域である。原告町は山林と農地を基盤とした農業、昭和四〇年代後半に導入された農村工業によって支えられてきたが、農林業の長期低迷、経済不況による受注減、高齢化による担い手の不足等地域経済は不安な状況に置かれている。
こうした中で原告町は昭和五九年八月二五日に京都府知事から森林整備市町村として指定された。そこで、原告町は「豊かな自然を生かした活力と健康のまち」をめざして昭和五九年度を初年度とする総合計画を策定し、林業については森林資源の保全、生産基盤の整備(林道網の整備等)、生産体制の強化、森林資源の多目的利用を推進しているほか、美山町林業振興地域整備計画、美山町森林整備計画等の計画に基づいて、多角的な森林整備に力を注いでいる。また、原告町は「美しい町づくり施策を推進するうえで、住みよい快適な環境を築くために、秩序ある発展と町民の健康で文化的な生活の向上を図ることを目的と」して、水質保全、自然量観保全、土地開発及び建築の規制、公害発生防止等を規定する「美しい町づくり条例」(平成四年一二月二一日条例第一七号)を定め、平成五年四月一日から適用している。
2 被告会社は昭和六〇年三月に設立された土木工事等を目的とする株式会社で、被告前田は設立時には被告会社の代表取締役であったが、昭和六一年七月一四日に辞任して現在は取締役である。被告会社の現在の代表者は被告前田の長男の妻であり、被告らは一体となって事業を営み、京都府船井郡園部町や同瑞穂町等で産業廃棄物等を投棄している。
被告前田は平成三年一〇月一六日売買を原因として同月一八日に本件山林の所有権移転登記を済ませたが、被告前田の次男である前田卓也は平成五年一〇月一五日に真正な登記名義の回復を原因として本件山林の所有権移転登記を済ませた。そして、千代川産業株式会社は平成六年一一月四日譲渡担保を原因として同月七日に本件山林の所有権移転登記を済ませた。
3 内閣は昭和六二年七月二四日に総延長二八万五〇〇〇キロメートルの林道整備を目標とする林業基本法に基づく森林資源に関する基本計画を閣議決定し、平成三年八月九日に同日から平成一九年三月三一日までを計画期間とし総延長六万八七〇〇キロメートルの林道整備を目標とする森林法に基づく全国森林計画を閣議決定し、平成四年四月一四日に平成四年度から平成八年度を計画期間とし造林、間伐及び保育並びに林道の開設及び改良の事業について定める森林法に基づく森林整備事業計画を閣議決定した。
4 本件林道は、平成元年四月一日から平成一一年三月三一日までを計画期間とする京都府の丹波中部地域森林計画及びこれに基づく原告町の森林整備計画(甲四二は平成六年四月一日からのもの)によって策定された林道向谷線の計画を、前項の森林整備事業計画等に則って策定された平成三年九月二〇日から平成一三年三月三一日までを計画期間とする由良川地域森林計画によって路線名等を変更して設置された民有林林道である。本件林道は、総延長六六〇メートル、幅員四メートルの林道で、その始点は府道八原田上弓削線に接続するもののその終点は行き止まりで、表面も舗装されていないし、ガードレール等の安全設備も十分に整備されていない。本件林道に隣接する集落はない。
5 平成二年ころ本件林道の利用区域である落窪谷の山林の所有者は一六名で、大泊共有林以外の大泊在住の者は三名で、他は原告町の他の地区に住んでいる者が大半で、町外に住んでいる者が二名であった。本件林道の利用区域内の人工林率は約七割で、人工林の樹種は杉、桧が主で、人工林は間伐保育等を必要とする若齢林の占める割合が多く、その効率化のために林道が必要であった。そこで、知見造林組合長の笠谷喜六(昭和五四年から平成六年三月まで在住)は平成二年一月一六日に原告町に対して本件林道の開設を希望する旨の書面を提出したが、本件林道を開設するには橋梁を架設する必要があったので、総事業費が五〇二三万三八一〇円にも及び、受益者分担金は合計七五三万五〇〇〇円(そのうち京都府造林公社が九二万一四四五円、大泊共有林が二六八万三六二二円、大泊区が六九万六七二一円であった。)と高額であったことから、知見財産区、大泊共有林、知井財産区、大泊区、その他個人一三名の受益者全員の同意が得られず本件林道は容易に開設されなかった。
6 ところが、被告前田が平成三年一〇月一六日に受益者の一人である鳴坂孝子から本件山林を購入した後、笠谷喜六に対し「本件山林にログハウスを建てたい。受益者分担金のうち五〇〇万円を負担するので、本件林道を使用できるようにしてほしい。」旨表明した(なお、被告前田の本来の受益者分担金は七六万九六八四円であった。)ことから、知見区大泊(七戸)の平成三年度の代表でもあった笠谷喜六は、被告前田からの申し入れを真実として受け取り、大泊の寄り合いで被告前田からの申入れの趣旨を説明した上、本件林道の開設を原告町に申し入れた。
そして、同年一一月一七日には本件林道の利用区域の山林所有者から「平成四年度に林業山村活性化林業構造改善事業として施行する落窪谷線開設工事のため、必要を生じたる林道敷設用地に林生する樹木及び土地を無償提供することを承諾します。」旨の承諾書及び「平成四年度に林業山村活性化林業構造改善事業として施行する落窪谷線開設工事について、代表者を小野孝一と定め、下記のとおり同意します。 記1 事業は美山町が事業主体となり、町営事業として施行する。2 分担金は定めた分担率により、美山町分担金徴収条例の定めるところにより納付する。」旨の同意書が町に提出され、平成四年一月ころには本件林道を開設する運びとなった。
なお、被告前田は、右の承諾書及び同意書に受益者の一人として署名捺印した。
7 本件林道の開設が決まると、原告町の担当者は「美山町林道管理規程」に基づいて、本件林道の受益者に対し本件林道を維持管理する管理組合を設立するように指導した。これを受けて、平成四年九月八日ころから原告組合の設立に向けて設立総会の案内状が本件林道の受益者全員に送付された。そして、原告組合は平成四年九月一七日に設立総会が開催されて設立され、「林道維持管理組合規約」を定めて組合長に土井惣吉を選出し、さらに受益者分担金の負担割や組合費の徴収等についても決定した。
その間、原告町は林産物の搬出、造林、間伐、保育の施業の効率化、高度化を図るために、平成四年六月に平成四年度京都府単費林道事業として補助を受けることの決定を受けたが、これに関する京都府の林道関係補助金交付要綱には次のような定めがあり、原告町は少なくとも京都府に対してはこの定めに基づく義務を負担した。
(一) 知事は、林業経営の合理化の促進及び農山村地域の振興を図るため林道関係事業に要する経費に対し、予算の範囲内において市町村並びに森林組合、生産森林組合及び森林組合連合会に補助金を交付する(以下省略)(一条)。
(二) 補助を受けようとする者が事業に着手したときは(中略)事業着手届を遅滞なく知事に提出しなければならない(八条)。
(三) 補助を受けようとする者が事業を完了したときは(中略)実績報告書及び収支決算書(中略)を遅滞なく知事に提出しなければならない(八条)。
(四) 補助金の交付を受け、事業を実施した者は地方公共団体の場合にあっては、当該補助事業等に係る京都府の補助金と、当該補助事業等に係る当該地方公共団体の予算及び決算との関係を明らかにした調書を作成し、これを保管し(中略)なければならない(一二条)。
(五) 補助金の交付を受け事業を実施した者は当該事業完了後は(中略)林道台帳を整備するとともに翌年度五月末日までに知事に提出しなければならない(一三条)。
(六) 補助金の交付を受け事業を実施した者は当該事業完了後は当該林道を管理する管理規程を規定して善良な管理者の注意をもってこれを管理しなければならない。ただし、あらかじめ(中略)知事の承認を得た場合にかぎり、地方公共団体又は森林組合若しくは生産森林組合を指定して前項に規定する管理に当たらせることができる(一四条一項)。
(七) 補助金の交付を受け開設された林道の施設の全部又は一部が林業以外の目的への転用若しくは市町村道等への用途変更又は当該林道の利用区域内の林地の転用が行われる場合は、施行主体は知事の承認を得、又は所管する地方振興局長と協議を行うため、その申請を行う(以下省略)(一五条一項)。
8 そして、原告町は前記のとおり山林所有者から用地の使用権の提供を受けるなどした上、自らが事業主体となって路面、排水施設、橋梁、交通安全施設等を施工して平成五年三月二〇日に本件林道を概ね完成させ同月二三日に検査を済ませた。その後、原告組合は同月三〇日に原告町から本件林道の施設を引き受け、以後その維持管理に努めている。
また、原告町は同月二四日に受益者分担金を同月三一日までに納入するように通知し、鳴坂敏夫、笠谷喜六、土井惣吉は同月三一日に被告前田から五〇〇万円を受け取り、本件林道の受益者らは同年五月二八日に受益者負担金を原告町に納付した。なお、原告前田が提供した五〇〇万円のうち七六万九六八四円は被告前田の受益者分担金に当てられ、その残額は大泊の住人が負担すべき受益者分担金及び知見財産区が負担すべき受益者分担金に当てられた。
9 被告らは、平成五年一一月ころから原告町に対し山林での安定型産業廃棄物の投棄について相談するようになり、被告前田が同月上旬に「美しい町づくり条例」に基づく安定型産業廃棄物の処理場設置の申請の申出のため役場を訪れ、同月下旬に計画実現の可能性について協議したい旨申し入れた。これに対し原告町は「美しい町づくり条例」に基づく申請用紙を交付するとともに、簡単な図面及び具体的な資料に基づいて開発面積、工期等を説明してほしい旨依頼した。その後、被告前田の意を受けた鳴坂敏夫は、同年一二月上旬には原告町の担当者に電話をかけて被告前田の計画について協議したい旨申し入れ、同月中旬には役場を訪れて被告前田の計画について説明をし、平成六年一月中旬には簡単な平面図、断面図、構造図を持参して役場を訪れ、ダンプカー五台で一日に二、三回産業廃棄物を運搬するなどの被告前田の計画について説明をした。被告前田は同月下旬に役場を訪れ、産業廃棄物の処理場がだめならば土砂の処理場はどうかと申し入れた。被告前田と原告町の理事者は同年三月八日に協議をし、原告町は計画の撤回を申し入れたが被告前田はこれを拒否した。
10 被告らは、そのころには本件林道の中間地点から林道に接続して進入路を開設し、本件山林のうち九五〇〇平方メートルの森林の立木を伐採し、谷に高さ一〇メートルのコンクリート擁壁を設けて最終的には約三分の一に安定型産業廃棄物を、約三分の二に土砂及び岩石を投棄する計画を立てた。そして、被告前田は平成六年二月二五日に京都府京北地方振興局を訪れ、森林法一〇条一項に基づく手続について協議をし、同年四月八日に京都府に対し、本件山林のうちの九五〇〇平方メートルの立木を伐採する旨記載した同条項に基づく伐採届を提出し、同月一一日に伐採地の実測図面を提出し、同月二六日に京都府から伐採届の受理を得た。
11 原告町は平成六年五月二七日から同年六月三日にかけて、町民の代表者らに対し被告らの計画について報告をした。原告町の議会は同月二〇日に全員協議会を開催し、被告らの計画への対策を協議した。原告町の助役らと被告前田は同月二二日及び同月二三日に面談し、原告町の助役らは計画を断念するように申し入れたが、被告前田はこれを拒否した。原告町の議会は被告らの計画に対して、同月一七日に産業廃棄物処理場建設反対に協力を求める請願を全会一致で採択し、同月二九日に環境保全特別委員会を設置した。原告町の議会議長及び環境保全特別委員会委員長は同年七月四日に被告前田と面談し、計画を断念するように申し入れたが、被告前田はこれを拒否した。さらに、原告町の全議会議員らは同月一二日及び同月一八日に被告前田と面談し、計画を断念するように申し入れたが、被告前田はこれを拒否した。
12 他方、大泊地域が被告前田から五〇〇万円の提供を受けたことが問題とされたことから、大泊の住人は原告町を介して、平成六年七月一三日に被告前田に対し、被告前田の受益者分担金分を差し引いた四二三万〇三一六円を被告前田の銀行口座に振り込んで返還した。そして、原告組合は、同月二三日に役員会を開催して被告らに本件林道を使用させないこと及び被告らの計画を白紙撤回することを求めることを全員一致で決議し、原告町及び原告組合はそれぞれ同月二五日付け書面で被告会社に対し本件林道を許可なく使用しないように通告した。また、原告町の住民や自治会連合会、農業協同組合、森林組合、商工会、漁業協同組合等の原告町にあるほとんどの団体は、産業廃棄物処理施設の建設に反対してその白紙撤回を求めて反対集会や現地調査を実施し、美山町自治会連合会は同年八月一日付け書面で被告らに対し被告らの計画の白紙撤回を求めた。原告町の理事者及び環境保全特別委員会委員長は同年八月三日に鳴坂敏夫と面談したが、解決には至らなかった。
13 原告らは平成六年八月一一日に被告らを相手として本件林道の通行禁止を求める仮処分を申し立てた。すると被告前田は同月一二日に京都府京北地方振興局農林課に対し翌日から本件山林に産業廃棄物を投棄する旨電話で通告し、本件林道上に盛土をして本件山林への進入路を設置する工事を始めたので、本件林道は使用できなくなった。その後、被告らは同日午後九時ころに大型ブルトーザーを本件林道の入口に搬入したので、原告町は同日午後一〇時ころに本件林道上にユンボを置いて被告らが本件林道を使用できないようにした。被告らは同月一三日早朝に産業廃棄物を満載した被告会社所有のダンプカーを本件林道の入口付近に待機させた上、被告前田はユンボを除けるように申し入れたが、原告町はこれに応じなかった。被告らは、同日昼ごろから本件林道上の土砂を取り除く作業をしたことから、本件林道の使用が可能になった。それから被告らは引き上げ、その後は産業廃棄物を投棄するかのような行動を取っていない。
14 原告町は被告らの計画を念頭に置いた上、「土砂等による土地の埋立て、盛土及びたい積行為について、美しい町づくり条例に基づいて、環境の保全及び災害の防止を図るため、必要な規制を行うことにより、町民の健康で安全かつ快適な生活環境を保持することを目的と」して「美山町土砂等による土地の埋立て、盛土及びたい積行為の規制に関する条例」(平成六年七月一二日条例第一五号)を定め、平成六年八月一日から施行した。これを受けて町長は「美山町土砂等による土地の埋立て、盛土及びたい積行為の規制に関する条例施行規則」(平成六年七月一二日規則第一号)を定め、平成六年八月一日から施行した。また、原告町は「森林の健全な育成を図るため、美山町が管理する林道及びこれに隣接する林地を保全するとともに、林道の機能が十分発揮できるように良好な状態で維持管理することにより、林業振興及び林道周辺の自然環境の保全に資することを目的と」して本件条例を定め、町長は本件規則を定めた。
そして、原告町は、京都府の林道関係補助金交付要綱に従って本件林道を美山町民有林林道台帳に登載して管理しているほか、本件条例及び本件規則に基づいて本件林道の維持管理及び補修整備等を原告組合に委任している。
15 原告町は被告らに対し平成八年一一月一九日付け書面で本件条例一八条に基づいて本件林道の使用の禁止を命ずる旨の意思表示をした。
以上の事実が認められる。
二 判断
1 差止めの根拠について
(一) 森林法は「森林の保続培養と森林生産力の増進とを図」ることを目的として(一条)、農林水産大臣に「森林資源に関する基本計画」(林業基本法一〇条一項)に即して樹立される全国森林計画をたてることを義務付け(四条一項)、そのなかで「林道の開設その他林産物の搬出に関する事項」を定めることとし(四条二項四号)、都道府県知事には全国森林計画に即して民有林に関する地域森林計画をたてることを義務付け(五条一項)、そのなかで「林道の開設及び改良に関する計画、搬出方法を特定する必要のある森林の所在及びその搬出方法その他林産物の搬出に関する事項」を定めることとし(五条二項五号)、都道府県知事により森林整備市町村として指定された市町村(一〇条の七第一項)には都道府県知事の承認を得て(一〇条の八第五項)地域森林計画に適合するように市町村森林整備計画を定めることを義務付けている(一〇条の八第一項四項)。
そして、市町村森林整備計画で定めるべき事項は「作業路網その他森林の整備のために必要な施設の整備に関する事項」(同法一〇条の八第二項五号)、「林産物の利用の促進のために必要な施設の整備に関する事項」(同項六号)、「その他森林の整備のために必要な事項」(同項九号)等にわたり、そのなかに林道の開設ないし維持管理等が当然に含まれるものと考えられるところである。
本件において、前記認定の事実並びに弁論の全趣旨を総合すると、内閣による昭和六二年七月二四日の林業基本法に基づく森林資源に関する基本計画決定、平成三年八月九日の森林法に基づく全国森林計画決定、平成四年四月一四日の森林法に基づく森林整備事業計画決定等にもとづいて京都府の丹波中部地域森林計画及び原告町の森林整備計画及びその変更計画等が策定され、本件林道はこれらの諸計画に基づいて原告町が京都府単費林道事業の補助金の交付を受けて、山林所有者から用地の使用権の提供を受けた上、自らが事業主体となって完成させた民有林林道であることが認められる。
そうすると、原告町は森林法に基づいて森林整備計画において本件林道の設置及び維持管理に関する事項を定める権限を与えられたものである上、京都府からの補助金の交付を受けるに当たっては、少なくとも京都府に対して林道関係補助金交付要綱によって、前記認定の7(一)から(七)のとおりの設置林道の目的遵守義務、報告義務、経理内容の明示の義務、林道管理義務(善管注意義務)、林道の目的転用等の制限等の制約を受けていたものであるというべきである。
(二) ところで、地方自治法は「普通地方公共団体は、その公共事務及び法律又はこれに基づく政令により普通地方公共団体に属するものの外、その区域内におけるその他の行政事務で国の事務に属しないものを処理する。」(二条二項)、「前項の事務を例示すると、概ね次の通りである。但し、法律又はこれに基づく政令に特別の定があるときは、この限りではない。」(同条三項)として、「公園、運動場、広場、緑地、道路、橋梁、河川、運河、溜池、用排水路、堤防等を設置し若しくは管理し、又はこれらを使用する権利を規制すること。」(同項二号)と定めている。
そして、本件林道のような道路に関してはその設置、管理及び使用権の規制事務が「国の事務に属」する旨の「法律又はこれに基づく政令に特別の定」はないし、その設置に至る経過、目的が前記のとおり森林法の趣旨、目的を受け、京都府の林道関係補助金交付要綱の規定に沿ったものであることなどからしても、これが普通地方公共団体である原告町の行うことのできる事務に含まれると認めるのが相当である。
そして、原告町は事業主体として本件林道の開設工事を行うに当たって土地所有者等の受益者から前記認定のとおり承諾書及び同意書を得ていることからも、本件林道を「良好な状態で維持するため」その管理、保全及び使用に関する必要な事項を定めることができるというべきである。
(三) 被告らは、まず、本件林道は開設事業費の八五パーセントが公的助成によるものであるから、これを公道として一般公衆の用に供されるべきものであるうえ、被告前田は受益者の一人として費用を負担しているのであるから、林産業以外の目的による使用を排除する根拠はないと主張する。
しかし、本件林道の開発事業費の八五パーセントが公的助成によるものであるとはいえ、これはそのうちの五〇パーセントは京都府からの林道関係補助金交付要綱に基づく補助金であり、三五パーセントは同要綱の拘束を受ける原告町の予算によるもので、いずれも本件林道の開設目的を「林業経営の合理化の促進及び農山村地域の振興」を図ることに置くものであるから、公的な助成によるとの点から当然に本件林道を一般公衆の用に供されるべきものということはできない。
また、被告前田は、受益者の一人として費用を負担しているとしても、本件林道の前記のような設置経過、目的からすると、林道としての本来の目的から逸脱するような使用をすることは原則として許されないというべきである。
(四) 以上の緒点、特に原告町が前記認定の受益者からの同意及び承諾に基づいて京都府からの林道関係補助金交付要綱に基づく補助金を得るなどして本件林道を開設した経過等からして、原告町は本件林道を林業経営の合理化の促進及び農山村地域の振興を図る目的に沿って使用されるように維持管理をする権利義務があるというべきであるが、平成七年三月二七日に本件条例が定められ、これに従った管理を行うことが義務づけられるに至った。
ところで、被告らは、被告らの産業廃棄物処理計画を実行するには廃棄物の処理及び清掃に関する法律、京都府条例等の廃棄物の処分に関する関係法規による届出をすれば足りるのに、本件条例は、町長の許可を要するとして条件を加重するから条例制定権の範囲を逸脱したものであり、また上位の地方公共団体の許認可権を侵害するものとして違法であると主張する。
しかし、廃棄物の処理及び清掃に関する法律は「生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的と」し、「廃棄物の適正な……運搬」をすることを謳っている(一条)ものであり、本件条例による通行規制は本件林道の維持管理をすることにより林業振興、林道周辺の自然環境の保全に資する目的で行うものであって、廃棄物の処分に関する関係法規による規制目的と異なるものであるから、被告らの主張するような規制を加重しているとの非難は当たらない。
また、被告らは、本件条例は本件山林を所有し、本件林道の開設費用を負担した被告らの財産権を侵害するものであるから、少なくとも被告らに適用することは違法であると主張するが、本件林道の開設費用の負担は被告前田による別個の法律行為によるものであって、本件条例によって招来されたものではないから、この点の被告らの主張も失当である。
(五) 次に、被告らは、原告の「美山町林道管理規程」や京都府の林道関係補助金交付要綱の規定するところからしても、仮に、管理者が本件林道の通行規制をすることができるとしても、禁止の対象とすることができるのは、林業経営の合理化や農山村地域の振興を積極的に侵害する行為など、一定の限定された違法不当な通行に限られるべきであると主張する。
そして、本件条例においては、七条において(1)から(5)に記載された場合のほかは本件林道を使用しようとする者は町長の許可を受けなければならないと定めていることは既に認定したとおりである。
ところで、一般的な場合は措き、本件条例の規定によれば、本件で問題となっている産業廃棄物等を搬入するために本件林道を使用しようとする者も町長の許可を受けなければならないが、以下この点について判断することとする。
まず、本件林道の始点は府道八原田上弓削線に接続するもののその終点は行き止まりで、隣接する集落もなく、一般交通の用に供するもの(道路法二条一項)とはいえず、路線の指定または認定(同法五条、七条、八条)、道路区域決定(同法一八条一項)、供用開始の公示(同法一八条二項)等がなされたことも認められないから、本件林道は道路法上の道路とはいえない。したがって、産業廃棄物等を搬入するために本件林道を使用しようとする者は本件林道周辺にこれらを投棄する目的を持つものであることを高度の蓋然性をもって推定することができる。そして、産業廃棄物等の投棄が、投棄場所の樹木の未伐採のまま行われても、伐採後に行われても、規模の大小を問わず、当該投棄場所及び周辺等に樹木の生育等、生育環境等に悪影響を与え、これが回復することが多くの場合困難であることが確実に予測されるから、本件条例の定める目的に照らしても、林業経営の合理化や農山村地域の振興の目的に照らしても、少なくとも産業廃棄物等を搬入するために本件林道を使用しようとする者も町長の許可を受けなければならないこととなる規定を設けたことには合理的な根拠があり、これを違法視することはできない。
そうすると、少なくとも被告らの産業廃棄物等の搬入目的による本件林道の使用に関しては、本件条例によって本件林道の維持管理を行う(地方自治法一四条二項)ことができるというべきである。
(六) しかし、本件条例は町長が林道を管理する旨(三条)定めた上、町長は林道管理者に林道の管理に関する権限の一部を委任できる旨(五条二項)定めているが、他方で本件条例は町長に林道の使用及び占用を許可する権限がある旨(七条、一二条)定め、本件規則は林道管理組合に林道の維持管理及び補修整備並びに利用料の徴収権限を認める(三条、四条一項)だけで、不正に林道を使用した者に対してさえ利用料の倍額の徴収権限しか認めていない(四条二項)ことにかんがみると、原告組合は原告町の委任に基づいて本件林道の使用を禁止する権限までを授与されたとは認められない。
また、普通地方公共団体がその立場で林道を管理している場合に、重ねて私権に基づいてその林道を管理する権限を認めると林道の公共性が損なわれるおそれがある。また、林業基本法は「林業の発展と林業従事者の地位の向上を図り、あわせて森林資源の確保及び国土の保全のため、林業に関する政策の目標を明らかにし、その目標の達成に資するための基本的な施策を示すことを目的と」して(一条)「林野の所有者又は林野を使用収益する権原を有する者は、その林野が……林業の生産基盤として効率的に利用されるように努めなければならない」旨(八条)を定め、森林法は前記の目的のため「森林所有者その他権原に基づいて森林の立木竹又は土地の使用又は収益をする者は、地域森林計画に従って施業し、又は森林の土地の使用若しくは収益をすることを旨としなければならない」旨(八条一項)定めていることなどからすれば、その場合には私権の行使は制限されると解すべきである(道路法四条本文参照)から、受益者からの同意及び承諾等によって原告町に本件林道の管理権が認められる以上、原告組合は私権に基づく本件林道の使用を禁止する権限を喪失したものというべきである。
2 差止めの理由について
(一) 被告らの産業廃棄物処理計画によれば、これを実行するときは、少なくとも一日に延べ一〇台から一五台のダンプカーが本件林道を使用することが予想され、本件林道は幅員四メートルの舗装されていない林道であり、ガードレール等の安全設備も十分に整備されていないから、ダンプカーが走行する際には他の者の徒歩あるいは車両による使用の妨げになることが容易に想定できるし、本件林道の表面の構造等からして、ダンプカー等の大型車が走行することにより本件林道の設備が損傷を受けることも容易に推認されるところである。
また、現に被告らは被告らの計画を実現するために本件林道上に盛土をして本件山林への進入路を設置する工事をし、本件林道の使用を妨げる行為に出たこともあったことは前記のとおりである。そうすると、被告らにその計画に沿った本件林道の使用を認めると、他の者による使用や設備の維持管理に支障をきたすおそれのあることが認められる。
(二) これに対し、被告らは、被告前田が本件林道を使用できるとの条件の下に受益者分担金を提供し、原告町もこれを承諾した旨主張し、その根拠として乙二等を挙げるが、被告が産業廃棄物の投棄計画を原告町に明らかにしたのは平成五年一一月以降のことであり、乙二が作成された平成三年一一月二二日ころは被告前田が本件山林にログハウスを建てると表明しており、そのころ原告町が被告らの産業廃棄物等の投棄計画を知っていたとは認められないから、原告町が産業廃棄物等を投棄するために被告らが本件林道を使用することまでを承諾していたとは到底認められない。
(三) したがって、原告町は本件条例に基づいて所要の手続を取ることなく産業廃棄物等を搬入する目的で本件林道を使用するおそれのある被告らに対し本件林道の使用差止めを求めることができるというべきである。
これに反する被告らの主張はいずれも採用することはできない。
第四 結論
以上の次第で、原告町の各請求はいずれも理由があるから認容し、原告組合の各請求はいずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 大出晃之 裁判官 磯貝祐一 裁判官 吉岡茂之)